憂愁の花 Ⅱ
「大丈夫?お嬢さん」
「ふぇはぇぇ…そらから…まど……」
「明らか大丈夫じゃないわよこれ」
しばらく目をちかちかさせていた少女はシナダに手を差し出されてようやく起き上がった。肩に乗っているウサギは目をチカチカさせて威嚇している。
「ウミ、コイツラ、ヤバイ。撃ツ?」
「撃たない!…手、ありがとうございます。びっくりしちゃいました」
ジッパーやポケットだらけのワンピースの汚れを払う。ウサギの目と同じ澄んだ紫のゴーグルを付けており、髪は石鹸の匂いと油のような臭いが混ざり合っていた。
「こんな所でどうしたの?ここは草と錆びた機械しかないよ」
全く人のことは言えないのだが、まだ幼さの残る少女がひとりでいるような場所ではない。
「私、スクラップ収集をしていて…でも探索道具を一部忘れて困っていたんです」
「なるほど、廃金属集めね」
この世界の人間は生計を立てる方法が非常に少ない。大量の植物やコンクリートの廃屋を片付けるには人手や機械が足らないことが多く、整地を行える生産者は限られてくるからだ。大抵の者は遠征して狩りや採集で生活をするため、彼女のような人間は決して珍しくなかった。
「あたし達は道具一式持っているの。しばらく一緒に行動しない?」
「え…いいんですか?」
「もちろんよ。…そいつがやらかした分何かしてあげられないと気が済まないし」
ヒエダが冷たい流し目を向けるとシナダは真顔でてへぺろをしている。バチンとはたくとそのままぴったり九十度に頭を下げ、その様子に少女はぷっと吹き出した。
「およ?何か面白かったかな」
「ふふっ…あははは!もう…面白さしかないですよ!」
涙を拭いて向き直ると少女はニカっと歯を見せて笑った。
「私は卯海っていいます。少しの間よろしくお願いしますね」